高齢社会の生活習慣病を考える



「あなたのコレステロールは大丈夫?」  北海道大学  佐久間一郎先生
 虚血性心疾患を防ぐには、動脈硬化の予防が大切です。動脈硬化とは、血管に コレステロールが貯まった上体ですが、その危険因子には、加齢、喫煙、家族歴、 肥満、糖尿病、高血圧、そして高脂血症があります。この高脂血症についてお話 ししていきたいと思います。
 高脂血症の診断基準は4つあります。

 1 総コレステロール 「220mg/dl」 以上だと異常値
 2 LDL(悪玉)コレステロール 「140mg/dl」 以上だと異常値
 3 HDL(善玉)コレステロール 「40mg/dl」 未満だと異常値
    これは、コレステロールを血管壁から汲み出す働きがあるので、
    多い方がよい。
 4 中性脂肪(トリグリセリド:TG) 「150mg/dl」 以上だと異常値

 厚生労働省の調査では、総コレステロールが260mg/dl以上ある人の場合、 200mg/dl以下の人よりも虚血性心疾患を発症する率が明らかに高くなる事が示 されています。
 一方、コレステロール値が正常でも虚血性心疾患を発症する人がいます。例え ば北海道の人達を対象にした調査では、心筋梗塞を起こした人の3分の2以上は コレステロール値が正常でした。だは何が悪いのでしょうか。
 最近言われているのが、「超悪玉コレステロール」の存在です。LDLコレス テロールのLDLはコレステロールを血管に運ぶリポたんぱくの一つですが、こ れにはサイズの大きなものから小さなものまで、種々の粒があります。
 小さな粒は血管内皮細胞の隙間を通して動脈壁の中により入り込みやすく、コ レステロールも一緒にたまってしまいます。このため、超悪玉と呼ばれているの です。
 コレステロールが正常で超悪玉を持っている人は、先ほど挙げた動脈硬化の危 険因子を沢山持っている方々です。また、HDLコレステロールが少なかったり、 中性脂肪が多いとこの超悪玉が増えることが知られています。
 こうした状態を改善するためには食事のカロリー制限と、運動が大切です。そ れでもコントロール出来ない場合は薬があります。特にスタチン系の薬は中性脂 肪を減らし、HDLコレステロールを増やして超悪玉コレステロールを減らしま す。また、血管の炎症を抑えるなど、さまざまな効能がありますので、上手に使 っていただくといいでしょう。



「高血圧から心臓を守るためには」  札幌医科大  島本和明先生
 厚生労働省の2000年度の調査では、30歳以上の男声で52%、女性で、 40%が高血圧と診断されています。
 高血圧はそれ自体が圧力となって、脳の血管や動脈瘤などが破裂する原因とな り、脳出血や一部の脳梗塞を起こしやすくします。もう一つは動脈硬化です。血 管に対する高い圧力が何十年のもわたって続くと、水道管と同じように血管の内 皮が刺激され、障害が起こります。この状態ではコレステロールが入りやすくな ります。動脈硬化からは脳梗塞や心筋梗塞などの合併症が起こりやすくなります。
 日本高血圧学会の基準では、上の血圧が140mm/Hg、下が90mm/Hg以上で 高血圧とされています。しかし、合併症予防という点では120/80以下が理 想的です。
 端野・壮瞥町研究によれば、上の血圧で130未満の人を1とした場合、14 0以上以上の人では心臓・血管系の病気の発症率が4.5倍にも増えます。高脂 血症や耐糖能異常、肥満といった危険因子があればより発症率は上がります。
 そこで、高血圧のコントロールが大切になってくるわけです。管理法には一般 療法と薬物療法があります。一般療法は生活習慣の改善のことです。特に大切な のが減塩で、1日10g以内に抑える必要があります。太っている方は適正体重 を維持することが大切です。アルコールは男性で20〜30g(日本酒で約1合) 以下、女性では10〜20g以下に抑えます。運動をしたり喫煙を止めるといっ たことも必要です。
 次に薬物療法です。血圧の値によっては必要な場合があります。薬の効果は大 変大きく、副作用を必要以上に恐れる心配はありません。ほうっておくと血管へ の障害が大きくなり、かえって危険です。
 また薬は一生飲み続けなければならないと思っている人がいますが、そうでは ありません。アメリカの有名なカブラン医師は軽症高血圧、特に上が140〜1 60、下は90〜100の患者さんでは3人に1人が生活習慣との併用で薬を止 めることができるといっています。
 最後に家庭血圧計の使い方ですが、これは高血圧のコントロールはもちろん、 薬の効果を確認するためにも有効です。ただし指や手首で測るタイプではなく、 上腕の血圧計を購入して下さい。測定法や測定値の見方については、かかりつけ 医などに相談するのがよいでしょう。



糖尿病を防ぐ上手な生活習慣  東北大学  岡 芳知先生
 糖尿病が恐ろしい病気といわれている大きな理由は合併症です。三大合併症と いわれる神経障害、網膜症、腎臓障害は知らぬ間に体をむしばみ、壊疽から足を 切断したり、失明や人工透析に至るケースも少なくないのです。
 97年の調査では、予備軍もあわせると1370万人で、10人に1人が糖尿 病か糖尿病に近い状態という結果が出ています。糖尿病が発症する背景には、環 境因子と遺伝子がありますが、特に環境因子としてのライフスタイルの変化が重 要なファクターです。
 例えば、オーストラリアのナウル島はかって糖尿病とは無縁の島でしたが、島 の資源であるリン鉱石が売れ始めると、働かなくてもお金が入ってくるようにな り、肥満と糖尿病の人が増え始めました。現在では10人に4人が糖尿病といわ れています。
 日本人を対象にした調査では、広島からハワイやロサンゼルスにわたった日系ア メリカ人は、広島にいる日本人に比べて2〜3倍も糖尿病の発症率が高いという 結果が出ています。また、この発生率は同じ場所に住んでいるアメリカ人より多 いのです。つまり、糖尿病は欧米型の生活習慣で発症しやすくなると同時に、特 に日本人はなりやすい人種であるといえるのです。欧米型のライフスタイルに変 わるとなぜ糖尿病が増えるのでしょうか。
 人類の歴史は飢餓との戦いで、われわれ日本人が飢えることなく食べられるよ うになったのはこの数十年です。それまでは、基本的に非常にお腹を空かして動 き回る生活をしていました。つまり、祖先の時代は節約遺伝子といって、同じ食 べ物をとっても太れる遺伝子を持った人が長生きができたわけで、その子孫であ
る私達もこの遺伝子を受け継いでいるのです。
 ですから、祖先の生活、つまり、狩猟採取生活に戻る事が糖尿病の予防につな がるということになります。具体的には食事療法と運動療法です。体重をBMI (ボディー・マス・インデックス)〔体重kg÷(身長m×身長m)〕で22に なるようにコントロールしてください。運動は1日1万歩を目標にするといいで しょう。
 米国ペンシルベニア大学の卒業生を追跡した調査では、毎日20分間の速歩と 同程度の運動をすると糖尿病の発症率は6%低下するという結果がが出ています。 努力すれば必ず改善されるのですから、ぜひ、がんばっていただきたいと思いま す。



高齢化社会の心臓病  大阪大学  堀 正二先生
 心臓病の中でも一番怖い病気が心筋梗塞です。梗塞は血管が詰まるという意味 で、末梢の心筋に血液が行かなくなって壊死した状態です。大きな原因はコレス テロールです。変性したコレステロールや細胞に取り込まれたコレステロールが 冠動脈の内側にたまると粥腫(じゅくしゅ)という動脈硬化巣を作ります。
 このときは全くの無症状なのですが、何らかの原因で粥腫を取り囲む膜が破れ、 ここに血小板などが集まると血が固まって血栓の状態になり、血管が閉塞します。 閉塞が長時間続けば心筋に血が行かなくなって、死に至ることがあります。
 心筋梗塞が起こりやすい年齢は、男性では60歳代の半ばです。女性では70 歳代にピークがあります。女性はホルモンの関係で、男性よりも動脈硬化が起こ る年齢が遅いためといわれます。しかし、高齢で発症するほど死亡率が高いのも 事実です。
 治療の進歩で心筋梗塞の死亡率が10%をきっているにもかかわらず、90歳 代では約半数の方がお亡くなりになります。急性心筋梗塞による突然死は、特に 男性の場合、朝の8時〜12時、曜日では月曜日に多いといわれます。これには 交感神経の働きやストレスが関与しているようです。
 心筋梗塞の自覚症状は痛みです。心臓を中心に肋骨の裏の辺りがギュッと締め 付けられるような感じ、灼熱感、何か重たいものを置いているという重圧感が特 徴です。血管がまだ完全に詰まっていない狭心症の段階では30秒から10分く らいで痛みが止まりますが、心筋梗塞では15〜20分を超えて痛みが続きます。
 なお、肋間神経痛による痛みと狭心症の痛みが紛らわしいことがあるのですが、 指で肋間を押さえるとギュッと痛いところがあれば肋間神経痛と考えてよいでし ょう。心電図で確定診断ができます。
 心筋梗塞の治療は、大変進歩しています。急性期には心臓カテーテルで、閉塞 を広げる治療がよく行われます。心臓カテーテルを用いなくても、血栓を溶かす 薬を注射する方法もあります。また、狭心症の段階では、血管を拡張させるニト ログリセリンの舌下錠が有効です。
 なお、心筋梗塞の危険因子は喫煙、高血圧、糖尿病や肥満、高脂血症、ストレ スなどです。これらをできるだけ取り除くためには生活習慣の改善が一番です。 特に運動は効果的で小汗をかく程度のウォーキングを、できれば毎日、実行 していただきたいと思います。